東京高等裁判所 平成7年(ネ)5911号 判決 1997年10月28日
スウェーデン国・オンサラ・S-四三九〇〇・リュングリデン二〇
控訴人(原告)
パー-マルティン ペッターソン
スウェーデン国・オンサラ・S-四三九〇〇・フィルメスタールフェーゲンー
控訴人(原告)
ルネ サリン
スウェーデン国・ムーンダール・四三一五三・ネオンガータン八
控訴人(原告)
キュー-マティック スウェーデン エービー
代表者社長
ルネ サリン
大阪府大阪市城東区諏訪二丁目一四番二二号
控訴人(原告)
株式会社ベツセル
代表者代表取締役
田口輝雄
右四名訴訟代理人弁護士
島田康男
右輔佐人弁理士
八田幹雄
同
野上敦
東京都世田谷区中町五丁目二五番四号
被控訴人(被告)
オートスタンプ株式会社
代表者代表清算人
廣岡和治
大阪府大阪市北区西天満四丁目八番一七号
被控訴人(被告)
グローリー商事株式会社
代表者代表取締役
玉森靖久
東京都中央区日本橋馬喰町一丁目四番一六号
被控訴人
(被告オートスタンプ株式会社訴訟引受人)
ビルコン株式会社
代表者代表取締役
廣岡和治
右三名訴訟代理人弁護士
海老原元彦
同
廣田寿徳
同
竹内洋
同
馬瀬隆之
同
若林茂雄
同
谷健太郎
同
田子真也
右輔佐人弁理士
山名正彦
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
三 この判決に対する控訴人パー-マルティン ペッターソン、同ルネ サリン、同キュー-マティック スウェーデン エービーの上告のための附加期間を九〇日と定める。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人ら
「原判決を取り消す。被控訴人ビルコン株式会社は、別紙物件目録記載の物件を業として製造し又は販売してはならない。被控訴人グローリー商事株式会社は、別紙物件目録記載の物件を業として販売してはならない。被控訴人ビルコン株式会社及び被控訴人グローリー商事株式会社は、肩書所在地及び営業所において占有する別紙物件目録記載の物件を廃棄せよ。被控訴人グローリー商事株式会社は、控訴人パー-マルティンペッターソン及び控訴人ルネサリンに対し、それぞれ金一四七〇万円及びこれに対する平成四年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。被控訴人オートスタンプ株式会社及びグローリー商事株式会社は、控訴人キュー-マティックスウェーデンエービーに対し、各自金三七四万八九二〇スウェーデン・クローネ及びこれに対する平成四年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。被控訴人オートスタンプ株式会社及びグローリー商事株式会社は、控訴人株式会社ベツセルに対し、各自金一億三三〇〇万円及びこれに対する平成四年一二月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決
二 被控訴人ら
主文と同旨の判決
第二 本件事案の概要は、左記のとおり付加するほか、原判決三丁裏六行ないし二一丁裏七行記載のとおりである(ただし、一〇丁表九行目、一一丁表五行目、六行目、一三丁裏三行目、二〇丁裏五行目、一一行目、二一丁裏三行目、六行目の「選択ボタン四」を、「業種選択ボタン四」に改める。)から、これをここに引用する。
一 控訴人らの主張
1 原判決添付の物件目録を、別紙物件目録のとおり訂正する。
2 争点2及び3について
原判決は、本件発明が「複数のサービス場所から望ましいサービス場所を選択する顧客及び選択しない顧客の双方が併存している状態で列順を決定するものであって、順番割当ユニット4で顧客に割り当てた順番数は全ての顧客が一列の列順となるように記憶され」(三四丁表五行ないし八行)、「各サービス場所でサービスを受ける顧客は、そのサービス場所が空いた時点でコンピュータ手段6による順番数の決定で特定の顧客が割り当てられるもので、予め各サービス場所ごとにサービスを受けるべき顧客の列順が構成されるものではない」(同丁裏三行ないし七行)のに対し、被控訴人製品は、「選択ボタンを押さなければ順番数は割り当てられず、業種を選択しないことはできず、また、どの業種でもよいという選択も行われないもの」(三五丁表一行ないし三行)であって、「特定のテラーモニターが設けられたサービス窓口が空いた場合には、そのサービス窓口の担当する業種を選択した顧客に、その業種ごとに割り当てられた順番数をその順番に呼び出してそのサービス窓口のサービスを受けるものと決定する」(同丁裏一行ないし四行)ものと認定したうえ、被控訴人製品は本件発明の構成要件である「選択ユニット」(構成要件(二))、「順番数」(構成要件(一))、「割り当てられた順番数」(構成要件(四))を具備せず、したがって本件発明の「空いている特定のサービス場所でサービスされるべき特定の順番数の決定方法」(三五丁裏五行、六行)を充足しない旨判断している。
しかしながら、本件発明の構成要件(二)における「所望のサービス場所を選択」には、個々の窓口の位置的・物理的に着目して行われる選択、あるいは、窓口の担当者に着目して行われる選択のみならず、窓口が担当する業種に着目して行われる選択が含まれる。また、選択の方法には、窓口番号を指定する選択のみならず、担当者名を指定する選択、あるいは、業種名を指定する選択が含まれるし、選択される窓口も一つである必要はなく、同一の業種を担当する複数の窓口の選択であってもよいことは明らかである。
そして、被控訴人製品においては、「それぞれのモニターで各業種を個々に選択」するのであるが(甲第一四号証の二(「TM-21A 取扱説明書」の二枚目四行)、「複数の業種を選択」(同三枚目七行)できるから、例えば別紙「説明図A」記載のように、それぞれが担当する業種として、窓口1のテラーが「預入(F1)」と「窓口1(F3)」、窓口2のテラーが「預入(F1)」と「窓口2(F4)」、窓口3のテラーが「預入(F1)」と「窓口3(F5)」、窓口4のテラーが「預入(F1)」と「窓口4(F6)」を選択すると、番号カード発行手段の業種選択ボタンは「預入」・「窓口1」・「窓口2」・「窓口3」・「窓口4」が点灯することになる。そして、「預入」のボタンを押した顧客は、特定の窓口を選択しない顧客であるから、ボタンを押した順番に従って、最初に空いたいずれかの窓口でサービスを受けるが、特定の窓口でサービスを受けることを希望し、「窓口1」ないし「窓口4」のいずれかのボタンを押した顧客は、全体の中における前後関係を維持しつつ、希望する窓口が空くまで順送りに待たされ、当該窓口が空いた時点でその窓口のサービスを受けることになる。
また、例えば、別紙「説明図B」記載のように、窓口1のテラーが「相談(F1)」と「預入(F2)」、窓口2のテラーも「相談(F1)」と「預入(F2)」、窓口3のテラーが「相談(F1)」と「引出(F3)」、窓口4のテラーが「相談(F1)」と「新規定期預金(F4)」をそれぞれ選択すると、番号カード発行手段の業種選択ボタンは「相談」・「預入」・「引出」・「新規定期預金」が点灯することになり、別紙「説明図A」と同様の状態が生ずる。
このように、被控訴人製品によっても、「複数のサービス場所から所望のサービス場所を選択」(構成要件(二))でき、「望ましいサービス場所を選択する顧客及び選択しない顧客の双方が併存している状態」が生ずるので、「各サービス場所でサービスを受ける顧客は、そのサービス場所が空いた時点でコンピュータ手段(中略)による順番数の決定で特定の顧客が割り当てられる」ことにならざるを得ない。このように、被控訴人製品の「業種選択ボタン」は本件発明の構成要件である「選択ユニット」に相当し、被控訴人製品においても本件発明と同様の順番数の決定方法が行われることは明らかであるから、原判決の前記認定判断は誤りである。原判決の認定判断は、各テラーがいずれも一つの業種のみを選択し、しかも、各テラーが選択した業種がたまたま重複していないという、極めて特殊な場合にのみ妥当するものである。ちなみに、被控訴人製品の番号カード発行手段によって発行されるカードに印字される受付番号が「業種ごとに割りふられた番号」であるとしても、すべての顧客を番号カード発行手段にアクセスした順序に従ってコンピューター制御することは、本件発明の実施に当たって当業者ならば適宜になし得る事項にすぎない。
この点について、被控訴人らは、被控訴人製品は顧客に業種を選択させ、顧客に業種別の複数列の順番を付することを必須の要件とする旨主張する。
しかしながら、仮にそうであるならば、テラーモニターは担当業種として一つの業種しか選択できないように構成されねばならないから、被控訴人らの主張は当たらない。
3 控訴人らが被った損害について
(一)被控訴人オートスタンプは、平成元年一二月ころから同四年一一月一三日までの間に、被控訴人製品を少なくとも一四〇システム製造して被控訴人グローリーに販売し、被控訴人グローリーはこれを一システム約三五〇万円(合計約四億九〇〇〇万円)で銀行等のユーザーに販売した(以下、「被控訴人製品の販売行為」という。)。
本件発明の特許権者である控訴人ペッターソン・同サリンは、被控訴人製品の販売行為によって、本件発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する利益を失ったが、その額は、右販売価格四億九〇〇〇万円の六%に当たる金二九四〇万円である。そして、被控訴人グローリーは、被控訴人製品の販売行為が本件特許権を侵害することについて故意又は過失があったから、被控訴人グローリーは控訴人ペッターソン・同サリンに対し、それぞれ金一四七〇万円の損害を賠償する責任がある。
(二)控訴人キューマティックは、一九八一年六月一八日、控訴人ペッターソン・同サリンから本件特許権の専用実施権の設定を受けたが、登録を経由していないので、本件特許権の独占的な通常実施権を有するものであって、本件発明の実施品である窓口管理システム(以下、「キューイングシステム」という。)を製造・販売している。そして、控訴人キューマティックは、被控訴人製品の販売行為がなければ、少なくとも一四〇システムのキューイングシステムを、日本における独占的販売権限を有する控訴人ベツセルに対し販売することができた筈であるが、控訴人ベツセルに対するキューイングシステムの販売価格(スウェーデン空港渡し)は一システム五〇、七一五スウェーデン・クローネであり、そのうち純利益は二六、七七八スウェーデン・クローネであるから、一四〇システムの販売による純利益は三、七四八、九二〇スウェーデン・クローネである。
そして、被控訴人オートスタンプ・同グローリーは、被控訴人製品の販売行為が控訴人キューマティックの独占的な通常実施権を侵害することについて故意又は過失があったから、同被控訴人らは控訴人キューマティックに対し、連帯して三、七四八、九二〇スウェーデン・クローネの損害を賠償する責任がある。仮に右が認められないとしても、被控訴人オートスタンプ・同グローリーは控訴人キューマティックに対し、本件発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する損害を連帯して賠償する責任があるが、その額は前記のとおり金二九四〇万円である。
(三)控訴人ベツセルは、控訴人キューマティックとの間においてキューイングシステムの日本等における独占的販売契約を締結しているので、本件特許につき独占的な通常実施権を有する。そして、控訴人ベツセルは、被控訴人製品の販売行為がなければ、少なくとも一四〇システムのキューイングシステムを銀行等のユーザーに販売することができた筈であるが、ユーザーに対するキューイングシステムの販売価格は一システム四六七万五〇〇〇円であり、そのうち純利益は九五万円であるから、一四〇システムの販売による純利益は一億三三〇〇万円である。
そして、被控訴人オートスタンプ・同グローリーは、被控訴人製品の販売行為が控訴人ベツセルの独占的な通常実施権を侵害することについ。て故意又は過失があったから、同被控訴人らは控訴人ベッセルに対し、連帯して一億三三〇〇万円の損害を賠償する責任がある。仮に右が認められないとしても、被控訴人オートスタンプ・同グローリーは控訴人ベツセルに対し、本件発明の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する損害を連帯して賠償する責任があるが、その額は前記のとおり金二九四〇万円である。
二 被控訴人らの主張
1 訂正された物件目録のうち、「順番数」は、「業種ごとに割りふられた番号」の意味であれば認める。その余の部分は、被控訴人製品の特定として認める。
2 争点2及び3について控訴人らは、被控訴人製品は本件発明の構成要件である「選択ユニット」(構成要件(二))、「順番数」(構成要件(一))、「割り当てられた順番数」(構成要件(四))を具備せず、したがって本件発明の「空いている特定のサービス場所でサービスされるべき特定の順番数の決定方法」を充足しない旨の原判決の認定判断は誤りである旨主張する。
しかしながら、本件発明が全顧客に対し来店順に一列の順番を付することを前提としつつ、「顧客がサービスを受けたい特定のサービス場所を選択することもできるように」(本件公報四欄二一行ないし二三行)したものであるのに対し、被控訴人製品は、顧客に業種を選択させ、顧客に業種別の複数列の順番を付することを必須の要件とするものである。
そして、本件発明の構成要件(一)にいう「順番数」、構成要件(四)にいう「割り当てられた順番数」が、全顧客を対象とする一列の順番における順番数であることは明らかであるから、被控訴人製品は本件発明の構成要件である「順番数」(構成要件(一))、「割り当てられた順番数」(構成要件(四))を具備しないとした原判決の判断に誤りはない。また、本件発明のシステムにおいては、顧客が「複数のサービス場所から所望のサービス場所を選択し得る選択ユニット」(構成要件(二))によって、サービス場所の選択をすることも、しないこともできる(したがって、一列の順番の中に、特定のサービス場所を選択した顧客と、特定のサービス場所を選択しない顧客とが併存している)のに対し、被控訴人製品においては、業種の選択は必須であって、顧客が業種を選択しないことはできない(業種の選択をしない顧客には順番数が与えられない)し、いかなる業種でもよいという選択も許されないのであるから、被控訴人製品の「業種選択ボタン」が本件発明の構成要件である「所望のサービス場所を選択し得る選択ユニット」(構成要件(二))に相当しないことも明らかである。
この点について、控訴人らは、本件発明の構成要件(二)における「所望のサービス場所を選択」には窓口が担当する業種に着目して行われる選択も含まれる旨主張する。
しかしながら、本件発明は、構成要件(二)「所望のサービス場所を選択し得る選択ユニット5」の文言から明らかなように、顧客が選択を行わないことがあり得ることを前提とするものであり、本件公報には、その発明の詳細な説明に「顧客がサービスを受けたい特定のサービス場所を選択する」(四欄二一行、二二行)と記載されているのみで、控訴人らが主張するような業種に着目してサービス場所を選択する実施態様は示唆さえされていない。これに対し、被控訴人製品においては、業種選択ボタンによってサービス場所ないし窓口を選択することはできず、顧客はあくまでも業種を選択するのであって、業重選択の結果として特定の窓口でサービスを受けることになったからといって、これを「複数のサービス場所から所望のサービス場所を選択」したということはできない。
そして、控訴人らは、各テラーが別紙「説明図A」記載のようにそれぞれの担当業種を選択すると、被控訴人製品によっても「望ましいサービス場所を選択する顧客及び選択しない顧客の双方が併存している状態」が生ずる旨主張する。
しかしながら、被控訴人製品の業種選択ボタンは、文字通り業種を選択するものであるから、業種選択ボタンが、業種とかかわりなく特定の窓口を指定するように設定されている別紙「説明図A」は、被控訴人製品の構成を示すものではない。
3 控訴人らが被った損害について被控訴人オートスタンプが平成元年一二月ころから同四年一一月一三日までの間に被控訴人製品を少なくとも一四〇システム製造して被控訴人グローリーに販売し、被控訴人グローリーがこれを銀行等のユーザーに販売したことは認めるが、その余はすべて争う。なお、控訴人ベツセルが販売しているキューイングシステムは、本件発明の実施品ではない。
第三 証拠関係は、原審訴訟記録中の書証目録、及び、当審訴訟記録中の証人等目録記載のとおりであるから、これらをここに引用する。
理由
一 当裁判所も、原判決と同じく、控訴人らの本件請求はすべて棄却すべきものと判断する。その理由は、左記のとおり付加するほか、原判決二一丁裏九行ないし三六丁裏九行記載のとおりである(ただし、二六丁表三行、四行、三四丁裏九行ないし三五丁表一行、三五丁表七行、三六丁表一行、同丁裏一行、二行の「選択ボタン」を「業種選択ボタン」に改める。)から、これをここに引用する。
二 控訴人らは、当審において、被控訴人製品の構成を特定する物件目録を別紙のとおり訂正したが、被控訴人製品の構成が「順番数」の技術的意義を除いて右目録のとおりであることは当事者間に争いがなく、前記認定事実(原判決二六丁表三行ないし末行、三四丁裏八行ないし三五丁表三行)によれば、右物件目録中の「順番数」とは、「業種ごとに割りふられた番号」としての「順番数」を意味することが明らかである。
三 控訴人らは、被控訴人製品は本件発明の構成要件である「選択ユニット」(構成要件(二))、「順番数」(構成要件(一))、「割り当てられた順番数」(構成要件(四))を具備せず、したがって本件発明の「空いている特定のサービス場所でサービスされるべきの特定の順番数の決定方法」を充足しないとする原判決の認定判断は誤りであるとし、例えば各テラーがその担当業種を別紙「説明図A」あるいは「説明図B」のように選択すれば、被控訴人製品においても「望ましいサービス場所を選択する顧客及び選択しない顧客の双方が並存している状態」が生じ、本件発明と同様の順番数の決定方法が行われる旨主張する。
しかしながら、前記認定事実によれば、顧客が業種を選択しない限り順番数を与えられない構成の被控訴人製品は、各窓口が(一部は重複するにせよ)各種の業務をそれぞれ分担することを前提としていると考えられる。何故なら、各窓口がすべての業種を担当するのであれば、顧客に業種を選択させ、業種別に複数列の順番を付する必要性は考えられないからである。これに対し、本件発明のシステムは、顧客が特定のサービス場所を選択しなくとも順番数を与えられるのであるから、逆に、各窓口がすべての業種を担当することを原則としていると考えられる。何故なら、各窓口が各種の業務を分担することを原則とするならば、顧客にすべての窓口を通じた一列の順番を付したうえ、顧客がサービスを受ける窓口は、いずれかの窓口が空いた時点で順次に決定していく本件発明のような複雑な構成を採用する必要性は考えられないからである。
そして、控訴人ら主張の別紙「説明図A」における「窓口1」、「窓口2」、「窓口3」及び「窓口4」は、単に窓口の位置を特定しているにすぎず、各窓口の担当業種を特定しているとはいえないから、「窓口1」ないし「窓口4」のいずれかを選択することを、業種の選択を行うことと技術的に等価であるということはできない。また、別紙「説明図A」においては、すべての窓口が担当する「預入」を希望する顧客も、業種選択ボタンの「預入」を押したうえで順番数を与えられるのであるから、その意味でも、別紙「説明図A」に記載されている構成は、顧客が特定のサービス場所を選択しなくとも順番数を与えられる本件発明のシステムとは技術的に異なるものと考えざるを得ない。
また、控訴人ら主張の別紙「説明図B」における「相談」は業種の一つとみることもできるが、いずれかの窓口で相談した結果、顧客が希望する業種を担当する窓口を教示され、再び業種を選択し直して当該業種の順番数を与えられることになるにすぎないから、被控訴人製品において、別紙「説明図B」に記載されている構成が現実に機能することはあり得ない。そして、いずれの業種を希望する顧客も、たまたま相談した当該窓口でサービスを受けられるようにするためには、各窓口がすべての業種を担当することを原則としなければならないが、そのような構成ならば、顧客に業種を選択させ業種別に複数列の順番を付する必要性が考えられないことは前記のとおりである。したがって、別紙「説明図B」に記載されている構成は、被控訴人製品の構成を示すものとしては不適切というべきである。
この点について、控訴人らは、被控訴人製品が顧客に対して業種別に複数列の順番を付することを要件とするならば、テラーモニターは担当業種として一つの業種しか選択できないように構成されねばならない旨主張する。しかしながら、各テラーが複数の担当業種を選択し、また、同一の業種を担当する窓口が複数存在するとしても、顧客に対して業種別に複数列の順番を付することができないとする理由はない。そして、被控訴人製品においては、たとえ同一の業種を担当する窓口が複数存在しても、顧客はそのうちいずれかの窓口を望ましいものとして選択する手段を与えられていないから、同一の業種を選択した顧客の間においても、「望ましいサービス場所を選択する顧客及び選択しない顧客の双方が並存している状態」が生ずる余地はないと解さざるを得ない。もっとも、成立に争いのない甲第一四号証の三(「NMB-21A取扱説明書」)によれば、被控訴人製品には「役席モニター(NMB)」が備えられており、「窓口指名入力 お客様が窓口を指名して受付を希望された場合、番号と窓口を入力します。」(五枚目図5の下五行、六行)と記載されていることが認められる。これによれば、被控訴人製品においても、役席が行う操作によって特定の窓口を選択し得ることが明らかであるが、これが、本件発明の構成要件である「顧客が(中略)複数のサービス場所から所望のサービス場所を選択し得る選択ユニット5」、すなわち、顧客が自ら行う操作のみで特定のサービス場所を選択し得るものと技術的意義を異にすることは多言を要しないところである。
以上のとおり、被控訴人製品においても「望ましいサービス場所を選択する顧客及び選択しない顧客の双方が並存している状態」が生じ、本件発明と同様の順番数の決定方法が行われると認めることはできないから、被控訴人製品は本件発明の「空いている特定のサービス場所でサービスされるべき特定の順番数の決定方法」を充足しない旨の原判決の認定判断に誤りはない。
四 以上のとおりであるから、被控訴人製品は本件発明の技術的範囲に属する構成のものではなく、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は、その余の点を審理するまでもなく、正当である。
よって、控訴人らの本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担及び上告のための期間附加について民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項、第一五八条二項の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)
別紙説明図A
<省略>
別紙説明図B
<省略>
物件目録
左記構成からなる自動窓口受付システム(商品名・総合EYE-QUEシステム)
記
番号発行カード手段一と、制御手段二一と、スピーカー三五が備えられた複数の表示パネル三一と、複数のテラーモニター四一と、役席モニター五一とを有する自動窓口受付システムであって、
番号カード発行手段一は、業種選択ボタン四とプリンター三とが設けられており、業種選択ボタン四は制御手段二一で設定された種目のボタンのみが点灯し、ボタンが押されるとその業種のカードを発行し、プリンター三は制御手段一二からデータを受信することにより受付番号を印字するものであり、
制御手段二一は、番号カード発行手段一に備えられた業種選択ボタン四及び各テラーモニター四一に備えられた入力キー四四を監視する機能と、順番数を割り当てる機能と、テラーモニター四一の入力キー四四のうちの順番呼び出しキーが押されると割り当てられている順番数をそのテラーモニター四一に表示する指示をするとともに表示パネル三一にもその順番数を表示する指示をする機能とを有し、音声合成部に対して必要な制御を行って右表示パネル三一におけるスピーカー三五から呼び出し音声を発生させる機能を有し、
表示パネル三一は、CPU(コンピュータ)三二、インターフェース三三、表示部三四を備え、制御手段二一から表示データを受信し、その表示データを表示部三四に表示する機能を有し、
テラーモニター四一は、CPU(コンピュータ)四二、インターフェース四三、入力キー四四を備え、入力キー四四には、番号カード発行手段の業種選択ボタンに設定されている各種目のうちどの種目を処理するかを選択するキーであって複数のキーのうち選択したキーに対応する一つまたは複数の種目を呼び出す機能を有する種目選択キーと、種目選択キーで選択されている一つまたは複数の種目内で割り当てられている順番数を順番に呼び出す機能を有する順番呼び出しキーが設けられており、CPU四二は右入力キー四四の状況を制御手段二一に伝達する機能を有し、
役席モニター五一は番号カード発行手段のモード、テラーモニターの種目や窓口番号、表示パネル、モニターの組合せ等システムに関係したデータを設定、変更することができ、窓口指名入力の機能を有する、
割り当てられた順番数の記憶された順序内で代わる代わる次のものとなるようにした特定の列順で顧客にサービスするための自動窓口受付システム
イ号図面
<省略>